2022.3.1
no.59

照射食品について
 1 照射食品とは
   植物の発芽防止や食品の殺虫・殺菌などを目的として、放射線を食品に照射することを食品照射と呼び、照射された食品を照射食品と呼びます。食品照射は加熱や乾燥と同様な物理的な処理技術の一つです。放射線の電離作用を利用して食品中の細菌や病害虫のDNAに放射線損傷を引き起こして殺菌、殺虫、発芽防止を行う技術です。 
   
 2 食品照射の利用 
  世界では食品照射はいろいろな食品に利用されています。 
 
目的  線量(kGy)  対象品目 
発芽抑制  ~0.15  ジャガイモ、ニンニク、タマネギ 
殺虫  0.1~1.0  穀類、果実、食肉、魚介類 
成熟遅延  0.5~1.0  バナナ、パパイヤ、マンゴー 
殺菌  1~10  香辛料、ハーブ類、乾燥野菜 
滅菌  20~50  宇宙食、病人食 
 
   食品照射は放射線を照射しても食品の温度がほとんど上がらないため、生鮮食品や冷凍食品の処理が可能であり、栄養価が保たれる特徴がありますが、コストが高くメリットが大きい場合に使用が限られています。
 
   
 3 照射食品の安全性 
   照射食品の安全性評価は、WHO(世界保健機関)、FAO(国連食糧農業機関)、IAEA(国際原子力機関)が共同で実施されており、1980 年に実施されたFAO / IAEA / WHO の照射食品の健全性に関する合同専門家会議においては、「10kGy 以下の総平均線量でいかなる食品を照射しても、毒性学的な危害を生ずるおそれがない。」という結論を出しました。
 また、1997年、10kGy 以上を照射した食品に関しても健全性評価を実施し「意図した技術上の目的を達成するために適正な線量を照射した食品は、適正な栄養を有し安全に摂取できる」と結論づけました。

 
   
4 海外の照射食品の動向 
   FAO/IAEAのデータベースによると、世界で50か国以上の国で100品目以上の食品群で食品照射が許可されており、約40か国以上の国で実用化されています。そして、2013年での世界の食品照射の処理量は約100万トンと推定されています。
 食品照射は殺菌目的で使用されることが多く、特に香辛料は微生物による汚染の可能性が比較的高く殺菌が必要ですが、加熱殺菌では色調や風味に変化を生じさせるため、殺菌技術の一つとして放射線照射が利用されています。また、肉類の食中毒の多発を考慮して、肉の中心部まで均一に殺菌できる放射線照射のメリットを活かしての活用も拡がっています。
 また、海外から輸入した植物に付いている病害虫から国内の植物を守る植物検疫は、世界の貿易を行う上で欠かせない仕組みであり、以前は病害虫を殺虫するために、エチレンオキシドや臭化メチルなどを使用していましたが、エチレンオキシドはそれ自身の毒性で使用禁止、臭化メチルはオゾン層破壊物質に指定されたため使用が禁止されつつあります。これらの薬剤に代わって注目されているのが放射線照射であり、各国で植物検疫技術の一つとして使用されています。

 
   
 5 照射食品の日本の規制、実施状況 
   我が国においては食品衛生法第13条に基づき、食品、添加物等の規格基準の食品一般の製造、加工及び調理基準において、「食品を製造し、又は加工する場合は、食品に放射線を照射してはならない。」とされており、例外的に以下の場合は照射可能としています。
 
  ・食品の製造工程又は加工工程において、その製造工程又は加工工程の管理のために照射する場合で、食品の 吸収線量が0.10グレイ以下のとき。 
  ・各条の項において特別の定めをする場合
具体的には野菜の加工基準において、発芽防止の目的でコバルト60を線源とし、ガンマ線を吸収線量150グレイ(Gy)以内で一度だけばれいしょに放射線を照射すること認めています。
 
   また、食品表示基準において照射食品には「放射線を照射した旨」の表示が義務付けられています。
 日本の実施状況は1972年に、ばれいしょの放射線による発芽防止処理が旧厚生省から許可され、1974年に士幌アイソトープ照射センターが稼働し、ばれいしょの商業照射がスタートしています。現在、年間約8,000トンのばれいしょが放射線照射され、端境期である3月から4月にかけて出荷されています。

 
   
 6 照射食品の輸入規制 
   我が国においてはじゃがいもの発芽防止でしか放射線照射を認めていないため、放射線照射殺菌が認められている国からのハーブ及び香辛料を使用している場合、放射線照射による殺菌を行っていない旨の証明書を製造者から文書により確認することが求められています。(「ハーブ及び香辛料の殺菌方法の確認について」平成17年6月10日付け食安輸発第0610002号)
 また、対象国、対象製造者から輸入された食品については、輸入の都度、貨物を保留し放射線照射の検査(自主検査)が求められています。(「放射線照射に係る輸入時検査の強化について」平成25年9月18日付け食安輸発0918第2号)
 厚生労働省は輸入食品監視指導計画に基づき、2020年度は農産加工食品を中心に737件の放射線照射の有無のモニタリング検査を実施しており、結果、2020年度は合わせて6件(乾燥果実1件、調味料2件、香辛料1件、とうがらし(香辛料)1件、パプリカ(香辛料)1件)が食品衛生法13条違反となっています。
 
   
   
 
                 
                 



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