2022.1.5
no.58

食品中の汚染物質について
   我が国では汚染物質の公式な定義はありませんが、コーデックス委員会においては汚染物質を「食品に意図的に加えられるものではないが、その生産(農業、畜産、及び獣医療で行われる作業を含む)、製造、加工、調製、処理、包装、梱包、輸送、又は貯蔵の結果として、あるいは環境汚染の結果として当該食品中に存在する物質。昆虫の断片、げっ歯類の毛、その他の異物は含まれない」と定義しています。主な例としては、カドミウム、アフラトキシン(かび毒の一種)、アクリルアミドなどが挙げられます。
   
 1 汚染物質の種類と汚染経路
 
 種類 汚染経路 主な対策
放射性物質
重金属類
ダイオキシン
かび毒
原料農産物、水産物に存在(環境、微生物由来) 排出源対策
農産物の生産段階での汚染防止、低減
鉛、スズ
可塑剤
 
容器包装等由来 容器包装の改良、切り替え
アクリルアミド
クロロプロパノール
 
加工・調理工程で生成 加工・調理条件の変更
 
   
 2 食品中の汚染物質対策 
   カドミウム、アフラトキシン、アクリルアミドなどの食品中の汚染物質の低減対策については、国内で流通する食品中の汚染物質の汚染実態や暴露状況を調査し、その結果、管理が必要な場合には食品衛生法第13条に基づき、食品、添加物の規格基準(昭和34年厚生省告示370号)を設定し、規格基準を上回らないように低減対策を取っています。
 食品中の汚染物質の規格基準の設定にあたっては、コーデックス規格が定められている食品については、原則、コーデックス規格を採用することとしていますが、日本での食品中の汚染物質の汚染実態や日本人の食品摂取状況等からコーデックス規格を採用するのが困難な場合は、関係者の協力を仰ぎ、汚染物質の低減対策を強力に推進していくとともに、ALARAの原則※に基づく適切な規制値やガイドラインの設定を行っています。
 汚染実態や暴露状況の調査、直ちに規格基準の設定が必要でないと判断された汚染物質についても、食品の安全性を確保するためALARAの原則に基づき、できる限り低減することが有効であると考えられています。 
  ※ALARAの原則:「合理的に達成可能な範囲でできる限り低くする」という考え方。
   
 3 個別取り組み内容 
 1) メチル水銀への対策 
   魚介類は健康的な食生活にとって欠かせない食材ですが、反面、自然界に存在する水銀を食物連鎖の過程で体内に蓄積するため、日本人の水銀摂取の80%以上が魚介類由来となっています。特に、一部の魚介類については、水銀濃度が他の魚介類と比較して高いものも見受けられます。
 近年の水銀に関する研究報告において、低濃度の水銀摂取が胎児に影響を与える可能性を懸念する報告がなされていることを踏まえ、厚生労働省は妊婦の魚介類の摂食について注意喚起を行っています。 
   
  妊婦が注意すべき魚介類の種類とその摂食量(筋肉)の目安 
 
摂食量(筋肉)の目安   魚介類
1回約80gとして妊婦は2ヶ月に1回まで
(1週間当たり10g程度) 
バンドウイルカ 
1回約80gとして妊婦は2週間に1回まで
(1週間当たり40g程度) 
コビレゴンドウ 
1回約80gとして妊婦は週に1回まで
(1週間当たり80g程度) 
キンメダイ
メカジキ
クロマグロ
メバチ(メバチマグロ)
エッチュウバイガイ
ツチクジラ
マッコウクジラ 
1回約80gとして妊婦は週に2回まで
(1週間当たり160g程度) 
キダイ
マカジキ
ユメカサゴ
ミナミマグロ
ヨシキリザメ
イシイルカ
クロムツ 
 
  妊婦以外の幼児・子供や一般の方々については、通常食べる魚介類によって、水銀による健康への悪影響が懸念されるような状況ではないので、健康的な食生活の維持にとって有益である魚介類をバランス良く摂取することが求められています。  
   
 2) カドミウムへの対策 
   カドミウムは土壌又は水など環境中に広く存在する重金属のため、米、野菜、果実、肉、魚など多くの食品に含まれています。そして、それら食品を長年にわたり摂取することで、カドミウムの一部が体内に吸収され、腎機能障害を引き起こす可能性があります。我が国においては米から摂取する割合が最も多く、日本人のカドミウムの1日摂取量の約4割は米から摂取されているものと推定されています。
 我が国の現状は食品からのカドミウムの摂取状況及び国内食品中のカドミウムの含有実態を勘案した結果、一般的な日本人における食品からのカドミウム摂取が健康に悪影響を及ぼす可能性は低いと考えられます。しかし、ALARAの原則に従って、カドミウムの摂取量をさらに低減することが望ましいことから、厚生労働省は米及び清涼飲料水に規格基準を設け管理を行っています。 
   
食品   基準値
米(玄米及び精米) 0.4 ppm(mg/kg)以下 
清涼飲料水(ミネラルウォーター類) 0.003 mg/L 以下 
   土壌がカドミウムに汚染された農用地については、農林水産省の指導のもとに、汚染を除去するための客土、カドミウムの吸収効率の高い植物を用いて土壌中のカドミウム濃度を低減する「植物浄化」、稲穂が出る時期の前後に水田に水を張ることによりカドミウムの水稲への吸収を抑制する「湛水管理」が行われています。 
   
 3) アフラトキシンへの対策 
   アフラトキシンは、Aspergillus flavus、A.parasiticus、A.nomius 等が産生するかび毒であり、遺伝毒性が関与すると判断される発がん物質であることが知られています。1997 年の JECFA(FAO/WHO 合同食品添加物専門家会議)での評価において、耐容摂取量は示されず、「摂取は合理的に達成可能な値にまで低減されるべき」とコメントされています。
 アフラトキシンは国内農産物ではなく、輸入農産物に多く発生しており、令和2年度、輸入食品において総アフラトキシン(B1+B2+G1+G2)が検出されたものは、アーモンド、カカオ豆、きび、ケツメイシ、トウモロコシ、はとむぎ、ピスタチオナッツ、メボウキの種子、落花生が挙げられました。
 我が国では食品全般において総アフラトキシン(B1+B2+G1+G2)が10μg/㎏を超えないこと、乳においてアフラトキシンM1が0.5μg/㎏を超えないことが求められ、これに違反すると食品衛生法第6条違反として取り扱われることになります。
アフラトキシンのレベルを低減させるための加工は、殻剥き、湯通し後の色選別、比重及び色(傷)による選別などがあり、ピスタチオ中のアフラトキシンは焙焼により低減します。 
   
 4) アクリルアミドへの対策 
   アクリルアミドは主に紙力増強剤、合成樹脂、合成繊維の原料として用いられている化合物ですが、近年の研究で炭水化物を多く含む食品を高温( 120 ℃以上)で加熱調理することにより、食品中のアミノ酸の一種であるアスパラギンがブドウ糖、果糖などの還元糖と反応してアクリルアミドに変化することが分かりました。
 我が国では食品安全委員会がアクリルアミドは発がんのリスクが否定できないため、合理的に達成可能な範囲でできる限りアクリルアミドの低減に努める必要があると結論付けました。
 アクリルアミドの摂取量を控えるためには、揚げ物や脂肪分が多い食品の過度な摂取を控え、果実、野菜を含む様々な食品をバランスよく取ることです。バランスの良い食生活を送ることで、アクリルアミドを多く含む食品の摂取量も大きくならず、食品全体から摂取されるアクリルアミドの量も抑えることになります。 
   
   
 
                 
                 



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