2020.11.1
no.51

ゲノム編集技術応用食品
1  育種技術とは
   人間にとって優良な形質を持った農作物を得るため、人類は交雑育種という手法を取り両親の優良な形質を併せ持つ新しい品種を生み出してきました。また、現在の技術として人為的に放射線照射や化学物質を用いて農作物に突然変異を起こさせて、品種改良を行ってきました。しかしこれらの技術は新しい品種を生み出すまで長い時間が掛かるという問題点がありました。
 一方、遺伝子組換え技術は、求める形質を有した外部の遺伝子を農作物に挿入する手法で、挿入する位置は決められませんが、育種にかかる時間はやや短くなりました。これに対し、ゲノム編集技術は狙った遺伝子を切断して、修復ミスにより変異を起こさせるもので、変異の位置が決められるので効率的であり、育種にかかる時間も他の育種と比較して短期間であるという特徴があります。また、ゲノム編集技術は遺伝子の切断による塩基の欠失や置換だけではなく、切断部分に外部の遺伝子を挿入することも可能な技術です。
 ゲノム編集技術は2010年以降に発展した技術であり、アメリカでは高オレイン酸大豆がすでに商品化されており、日本国内では稲の収穫量を増やしてコストを下げた「超多収イネ」、GABA(γーアミノ酪酸)を多く含む「血圧上昇抑制トマト」、ソラニンをほとんど作らない「芽が出ても安心なジャガイモ」、養殖中に網にぶつからない「おとなしいマグロ」、筋肉量の多い「肉厚マダイ」などが研究開発されています。
 
 
 
 ゲノム編集技術応用食品の食品衛生法上の取り扱い  
   日本国内において、ゲノム編集技術応用食品が研究開発され商品化が近づいてくるにあたり、食品衛生上の取り扱いを明確にすることが求められ、厚生労働省薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会で論議されました。その結果、ゲノム編集技術応用食品の中で、外来遺伝子が除去されていないものは組み換えDMA技術に該当し、組換えDNA技術応用食品の安全性審査の手続(平成12年厚生省告示第233号)に従い、安全性審査を受ける必要があるのに対し、外来の遺伝子及びその一部が残存せず、かつ、特定の塩基配列を認識する酵素による切断等に伴う塩基の欠失、数塩基の置換、挿入、さらに結果として1~数塩基の変異が挿入される結果となる場合は、組み換えDNA技術には該当しない従来育種技術の範疇であり、届出だけで安全性審査を受ける必要はないとしました。
 令和元年9月19日、これらの考え方をまとめたゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領(大臣官房生活衛生・食品安全審議官決定)が定められ、令和元年10月1日より適用されています。この取扱要領によると、開発者は開発した食品についての必要な書類を厚生労働省に提出し、事前相談することを求めています。厚生労働省は、事前相談の食品が届出あるいは安全性審査のいずれの対象に該当するか否かについて、必要に応じて調査会を開催し判断の上、開発者に結果を回答します。届出と判断されれば、開発者は下記の情報を厚生労働省に提出します。 
 
  開発した食品の品目・品種名及び概要(利用方法及び利用目的)  
  利用したゲノム編集技術の方法及び改変の内容  
  外来遺伝子及びその一部の残存がないことの確認に関する情報   
  確認されたDNAの変化がヒトの健康に悪影響を及ぼす新たなアレルゲンの産生及び含有する既知の毒性物質の増加を生じないことの確認に関する情報   
  特定の成分を増加・低減させるため代謝系に影響を及ぼす改変を行ったものについては、標的とする代謝系に関連する主要成分(栄養成分に限る。)の変化に関する情報   
  上市年月(※上市後に厚生労働省へ届出)
安全性審査が必要と判断されれば、組換えDNA技術応用食品の安全性審査の手続に従い、安全性審査を受けることとなります。 
 
     
   厚生労働省資料  
     
ゲノム編集技術応用食品の表示   
 ゲノム編集技術応用食品の表示については、ゲノム編集技術応用食品の中で、外来遺伝子及びその一部が除去されていないものは組換えDNA技術に該当する技術を用いたものとされ、組換えDNA技術を利用して得られた食品は、食品表示基準に基づく遺伝子組換
え表示制度の対象となります。
 一方、外来遺伝子及びその一部が残存しないことに加えて、自然界で起こり得るような遺伝子の欠失や1~数塩基の変異が挿入されるものは組換えDNA技術に該当しない技術を用いたものとされ、組換えDNA技術を利用していないゲノム編集技術応用食品は食品表示基準に基づく遺伝子組換え表示制度の対象外となります。しかし、消費者への情報提供の観点から、事業者はゲノム編集技術応用食品である旨の表示をすることが推奨されています。

 
     
     
   
                 



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